店舗・設計・デザイン・監理

(1-1)「デザイン」が意味するもの

我々は日常生活で「デザイン」と言う言葉を良く使うが、その定義については、存外、曖昧である。
多くの人は、モノの姿や形、また、それを構想し、設計する行為をデザインと捉えているのではなかろうか。
事実、国語辞典では「デザイン」は以下のように定義されており、モノの姿や形に関することを指し示しているかのような印象が強い。
(1) 下絵。素描。図案。
(2) 意匠計画。
生活に必要な製品を製作するにあたり、その材質・機能・技術および美的造形性などの諸要素と、生産・消費面からの各種の要求を検討・調整する総合造形計画。
「建築−」「衣服を−する」(広辞苑第五版)
行なおうとすることや作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること。意匠。設計。図案。
「自分で―した服」「生活を―する」(三省堂大辞林第二版)
ただし、注意深く見ると、姿や形を描く造形行為のみならず、それを実現するための「計画」までがデザインという行為に含まれていることがわかる。また、デザインの対象も、いわゆる「モノ=物体」の姿や形に留まらず、「行なおうとすることや作ろうとするものの形態」とされている。
「生活をデザインする」との用例がある通り、必ずしも具体的な物質としての形がないものであってもデザインの対象となるのである。
この点は、英語におけるデザイン(Design)の定義を見るとよりわかりやすい。例えば、英和辞典におけるDesign の定義は以下のようになっている。

[名詞としての用法]

(1)<機械、建築などの>設計、デザイン
(2)図案、下絵、素描、設計図、模様、雛型
(3)計画、目的、意図
(4)(複数形で)陰謀、たくらみ、下心

[動詞としての用法]

(1)<絵画などの>下図(図案)を作る、<建築、衣服などを>設計する、デザインする
(2)計画する、立案する、企てる
(3)<〜するように>予定する(研究社「新英和中辞典」第6版)「計画する」「立案する」「企てる」が明示的に定義されているのが、日本語におけるデザインの定義と異なるところである。これはDesign という言葉のそもそもの出自に関係している。
デザイン(Design)の語源は、14 世紀のラテン語Designare である。Designare は、「計画に基づき、作る(創る、造る)こと」「創ること、考案すること、意図すること」を意味していた。これが中世英語に移って、現在のDesign となっていることから考えると、デザインは、モノの姿や形よりも、「計画」や「意図」にこそ、その本質があるのだと言えよう。しかし、日本ではこれが異なる受け止められ方をされてきたのである。
我が国にDesign という言葉が入って来た時、Design は「意匠」と訳された。「意」は、意志、想い、「匠」は、技巧、工夫、たくらみ、を意味するから、「意匠」とは「想いを形にするための技術や方法」を示すものだと言える。つまり、英語の原義に忠実な翻訳語であったのだが、その後、「意匠」は、単なる「装飾」と同義になってしまったのである。
Design は、また、「図案」と訳されることもあった。「図案」も「案」=プランニング、を含む言葉であるから、デザインの本義に近いが、これもまた、単なる下絵、模様、装飾パターンを示すものと理解されていた。このような背景があったため、戦後、「意匠」や「図案」と言った訳語は、Design の意味を矮小化していると問題視されるようになり、以後、Design は、「デザイン」とされるのが一般的となった。しかし、「意匠」や「図案」を「デザイン」と言い換えても、既に定着してしまったイメージは拭い去りがたく、以後、「デザイン」と言えば、一般的には、装飾や模様や姿や形のことを表すものと理解されているのである。

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(1-2)デザインの定義

以上のように、我が国においては、「デザイン」という言葉自体が、本来の意味よりも矮小化されたものとなってしまっている。これがデザインに対する一般的な理解を阻害してきたことも否めない。このため、経営者にとって、よりデザインを身近に感じてもらうためにも、デザインの再定義が必要であると考える。
実際、企業経営に関して、「デザイン」という言葉が用いられる場面は想像以上に多い。例えば、製品、パッケージ、販促物、店舗等のデザインと言った用例以外にも、「組織のデザイン」「人事制度のデザイン」「戦略のデザイン」「業務プロセスのデザイン」等の言葉は意識せずに普通に使われている。
前者は、いわゆる一般的な用法での「デザイン」=造形行為を意味している。
一方、後者の用例における「デザイン」は、ある特定の目標(例えば合理的な業務プロセスの実現)や想い(売上の増加等)を実現するために、対象物(組織、制度、戦略、プロセス等)のあり方を考え、設計することを意味している。また、この過程では、情報収集を行い、方向付けをし、調整を行いながら、最終的に決定をする、という行為が行われる。
すなわち、「デザイン」には、造形行為を介するものと介さないものが存在することになる。どちらの場合も、ある目標や想いを具現化するために、対象物のあり方を考え、設計することは共通している。また、方向付けや調整、意思決定という行為(=ディレクション)が含まれることも同じである。
このため、ここでは、前者を狭義のデザイン、後者を広義のデザインとし、以下のように定義することとする。
[狭義のデザイン]
あるコンセプトや想いを具現化するための造形行為とそのディレクション
[広義のデザイン]
あるコンセプトや想いを具現化するための計画・設計行為とそのディレクション
(注)ディレクション=方向付け、調整、意思決定

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(1-3)デザインの領域

デザインは、デザインされるものの対象によって、それぞれ性質が異なっている。マルチメディアの進展等社会の変化につれて、デザインされるものの対象も変化する。このため、その範囲(デザインの領域)を明確に定義することは難しいが、本調査報告書で言うデザインの意味を明確化する上でも、一定の位置付けが必要になると考える。そこで、ここでは、デザインの領域を以下のように整理しておく。
【狭義のデザイン】
狭義のデザインは、その対象の違いから、視覚系(情報系)、空間系(環境系)、機能系(プロダクト系)に分けることができる。
視覚系・・グラフィックデザイン、タイポグラフィ(文字デザイン)、映像・アニメーション等、2次元上のデザイン
空間系・・環境デザイン、インテリアデザイン、建築デザイン等、空間構成に関するデザイン
機能系・・プロダクトのデザイン(工業製品、テキスタイル、ファッション、クラフト等)
また、コミュニケーション/情報デザイン(空間におけるサイン計画等)、インターアクション/インターフェイスデザイン(マルチメディアのインターフェイスのデザイン等)等、これらの境界線上に位置付けられるべきデザインも存在する。
【広義のデザイン】
広義のデザインは、人が社会を形づくる上で必要となるおおよそ全てのものを対象とする。ここでは、以下を代表的な領域として挙げておく。
戦略のデザイン・・・・個人や社会集団における戦略のデザイン
組織のデザイン・・・・組織構造のデザイン
制度のデザイン・・・・制度、法律、仕組みのデザイン
プロセスのデザイン・・業務の流れや工程のデザイン
【解決すべき課題】
デザインには、例えば、ユニバーサルデザイン(インクルーシブデザイン)のように、上記の整理には収まりきらない領域も存在する。「デザイン変更や特別仕様のデザインをすることなく、すべての人にとって、できる限り利用可能であるように、製品、建物、環境をデザインすること」と定義されるユニバーサルデザイン(UD)は、デザインに当たっての基本的な姿勢や思想を意味するものであり、狭義、広義、双方のデザインにおいて今後ますます重要となる概念である。
また、企業活動において近年注目されているのが、デザインを活用したブランド構築である。
ここで言うデザインは、主として製品のデザインを意味するものと受け止められているが、ブランドを構築するためには、モノづくりに加え、流通やサービス、経営理念等のデザインも必要となる。つまり、ブランドもまた狭義と広義の双方のデザインを必要とするものである。
このような狭義、広義双方のデザインの境界領域に属するものには以下がある。
ブランド・・・製品、企業、国家等のブランドを構築するためのデザイン
サービス・・・サービスの品質や快適性を高めるためのデザインワークライフバランス・・より良い生活を享受するための、働き方や働く環境のデザイン
ユニバーサルデザイン(インクルーシブデザイン)・・全ての人の利用可能性を高めるためのデザイン
持続可能性(サステイナブルデザイン)・・環境負荷を軽減するためのデザイン

ブランドとデザインの関係
ブランドの「らしさ」を意味するブランド・アイデンティティ(BI)は以下の要素から形成される。製造業にとっては、PI が最も重要な要素である。

PI (Product Identity:プロダクト・アイデンティティ)⇒機能、品質、デザイン、価格、販売方法等から認識される製品/サービスの「らしさ」
CI (Corporate Identity:コーポレート・アイデンティティ)⇒企業の理念、ヴィジョン、歴史、従業員の態度等から認識される企業の「らしさ」
VI (Visual Identity:ヴィジュアル・アイデンティティ)⇒企業ロゴ、社屋、名刺、制服、HP、パンフレット等から認識される企業の姿

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■2. デザイン導入の効果

(2-1)デザインに対する経営者の認識

「用」と「美」を追求し、製品の付加価値を高めるデザインの重要性を問われれば、否定する人は少ないだろう。しかし、我が国の、特に中小製造業において、デザインを活用している企業は数多くない。
この要因としては、以下のような「壁」の存在が考えられる。
(1) 技術至上主義の壁
デザインは製品に化粧をする「美顔術」であり、本質的なものではないと思っている。このため、技術に比べて優先度が低く、デザインの必要性に思い至らない。
特に、生産財の世界では、機能や技術が最優先であり、デザインが入り込む余地はないと思っている
(2)費用対効果の壁
デザインに対する投資の必要性を感じても、どれだけの効果が具体的に見込めるのかがわからず、踏み切れない
(3)トラウマの壁
高いデザイン料を払ったものの売上が上がらなかった、デザイナーと大喧嘩した等の過去の失敗経験がトラウマになっており、二度とデザイナーと関わりたくないと思っている
(4) 体力の壁
デザインの必要性を感じても、デザイナーに関する情報を集めたり、デザイン料を払ったりする資源的な余力がない

これら4つの壁のうち、(3)、(4)以外は、デザインの本質や経営に与える意義についての理解不足が背景にあると思われる。経営者の視点からすれば、一体、デザインがどのような効果をもたらしてくれるのかがわからない限り、デザインの必要性にすら目が向かない。このため、以下では、デザインを経営に取り入れること(デザイン導入)が与える効果について検証する。

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(2-2)デザインの4つの役割

1930 年代のアメリカでは、デザイナーを雇って、製品のスタイリングを変えることが流行した。
機構を変えなくてもスタイリングを変えるだけで、売上を上げることができるため、多くの企業がデザインを活用したのである。このようなアメリカの現状を視察した松下幸之助は、1951 年にデザインの重要性に気付き、社内に意匠部門を設置している。これを皮切りにして、各企業は社内にデザイン部門を設け、多くの社内デザイナーを抱えて、デザインに対する取組を行うようになっている。このように、我が国の企業は早くからデザインの有用性に気付いていたのである。

しかし、経営の視点からデザインの意義や効果が体系的に語られることはなかったに等しい。
このため、デザインは製品の姿・形に色艶を与えるためのデザイナーの専門的なテクニックであり、経営者が取り組むべき重要な経営課題であるとは認識されてこなかったのである。このような状況は1980 年代に入ってから変化する。経営学の分野において、経営者が真剣に取り組むべき重要な戦略課題としてデザインが注目され始めたからである。以後、欧米の経営学者達を中心に、経営とデザインの関係に関する研究が蓄積されてきたが、中でも、デザインの果たす役割や効果については、ハーバードビジネススクールのRobert Hayesの整理が参考になる。Hayesによれば、企業活動におけるデザインの役割には、facilitator,differentiator, integrator,communicatorの4つの側面があり、それぞれ以下のように要約される。

(1) Design as Facilitator(競争力促進ツールとしてのデザイン
考え抜かれたデザインは、製造コストを下げ、製品の品質や信頼性を高めるとともに、メンテナンスコストやリードタイムの削減を可能にする
(2) Design as Differentiator(差別化ツールとしてのデザイン)
機能、品質、価格、製造コスト、開発サイクルが似通った競合商品が溢れる市場においては、優れたデザインが競合からの差別化要素となり、顧客に選ばれる商品となる
(3) Design as Integrator(統合ツールとしてのデザイン)
良いデザインを生み出す過程で、デザイン、エンジニアリング、マーケティング、製造といった開発の諸段階における人と機能が統合されることで、部門間の壁がなくなり、開発プロセスの合理化が行われる
(4) Design as Communicator(コミュニケーションツールとしてのデザイン)
デザインは、企業のメッセージ、価値観、イメージを社内外に伝達し、共有させるHayes は経営に与える効果を網羅的に説明してはいないが、4つの役割から期待されるデザインの効果の整理を試みれば、表―1になろう。

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(2-3)その他の期待される効果

我が国の中小企業における成功事例を集めた「デザIN きんき」(近畿経済産業局、2004 年)や「国内デザイン活用成功事例分析集」(UFJ 総研、2004 年)では、この他、デザインの導入に
より、新しい顧客との取引の開始やこれまでとは異なるターゲット層へ訴求できるようになったことが成功事例として数多く挙げられている。即ち、デザインには、新市場を開拓する効果があると言えるだろう。
また、デザイン導入の効果として、近年、特に注目されているのが、イノベーション(革新)の誘発である。例えば、1979 年に発売されたSONYのウォークマンは革新的な商品開発の例として有名だが、これはカセットテープレコーダーとヘッドフォンという、当時のSONYが持っていた技術を組み合わせたら面白い、という社内デザイナーの発想から生れたものである5。このように異なるものを組み合わせる「異種間受粉」や、新素材や新技術の導入によりイノベーションを誘発するのもデザインの効果である。そして、イノベーションを誘発するデザインの手法やデザイナーの発想に触れるうちに、技術一辺倒であった社員の間にユーザー志向が芽生えたり、発想力が向上したり、と言った意識の変化が生れるのも副次的なデザイン導入の効果と言えよう。社外デザイナーとの出会いが、会社の根本的なあり方を大きく変えていくこともある。早くから社外デザイナーを活用し、その製品のデザイン性の高さに定評のある欧米の企業にはこのようなケースが多い。例えば、優美なデザインと革新的な機能を有するオフィス家具を生み出すことで有名なアメリカのハーマン・ミラー社は、「人間の問題解決を図る」ことを経営理念に掲げ、そのための手段としてデザインを明確に位置付けている。創業当初はどこにでもあるような家具メーカーに過ぎなかったハーマン・ミラー社が、このような理念を有するに至った背景には、ジョージ・ネルソンやチャールズ&レイ・イームズと言った世界的なデザイナーとの出会いがある。「デザインは社会の変化に伴って生まれてくる人間の問題に対応しないといけない」(ジョージ・ネルソン)、「デザインは問題を解決するための適切な解答でなければならない」(チャールズ・イームズ)と言ったデザイナー達から学んだ思想を経営理念にまで高め、それを大切に受け継いできたからこそ、現在のトップブランドとしての姿があるとハーマン・ミラー社は認識している。デザインの導入が、経営理念の再構築を促し、会社の根本的なあり方を大きく変容させたことを示す好例である。

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(2-4)仮説としてのデザイン導入の効果

以上の議論をもとに、ここでデザイン導入が経営に与える効果の体系化を試みることとする。
まず、大きな括りとして、売上増加等の「経済的な効果」、生産コストの削減や開発期間の短縮等の「モノ作りにおける効果」、イメージ向上等の「イメージ・ブランド面の効果」、社員の意識変化等の「意識・風土面の効果」に分けた上で、更に細分化すると、表―2のように整理することができよう。

なお、「売上の増加」と「シェアの増加」は、必ずしも同義でないが、ここでは同一の扱いにしている。また、売上も「額」か「個数」かの違いで扱いが異なるが、区別をしていない。
更に、「組織内コミュニケーションの向上」は、「開発プロセスにおける部門間コミュニケーションの円滑化」と捉えれば、結果として、「開発期間の短縮」や「商品開発力の向上」につながることが期待されるため、「モノ作りにおける効果」に分類し得るものであるが、ここでは、より一義的な視点から「意識・風土面の効果」に分類している。

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デザイン・ブランドの定義について

「デザイン」活動とは、原則として「製品の外形を形づくる活動」をいいます。
ただし、販売・展示において「製品と一体となって製品のイメージ及びブランドの形成に寄与する活動(ホームページにおける表現、店舗インテリアの作成等)」も対象となります。
なお、服飾ファッションにおけるデザインも他の製品と同様に「デザイン」に含まれます。。
一般に「デザイン」活動とは幅広い活動を含む概念とされ、例えば経済産業省のこれまでの定義では、「デザイン活動は、人間の物質的、精神的な諸要求を最も十分に満足させる調和ある人工的環境を形づくることを意図する創造的活動である」(輸出検査及びデザイン奨励審議会)とされてきています。この定義に従うと、描画から環境運動まで非常に多くの多様な活動が含まれることとなります。

しかし、近年の経済情勢を踏まえると、
付加価値の向上、競争力の強化、ブランド構築に向けたデザインの役割が極めて重要になっており、製品の外形だけでなく、店舗、ホームページ、パンフレット、コマーシャル等、顧客との様々な接点(タッチポイント)すべてにおいて一貫した戦略的な取組がデザインに求められています。
そこで、
ブランド形成という新しい目標を念頭に置いて「デザイン」という用語を用いることになりました。
もちろん、デザインが重要であるのは製造業の競争力強化というような経済的側面だけからではなく、デザインは言語手段を経ることなく世界の人々を結ぶコミュニケーションの手段であるなど社会的にも文化的にも様々な貢献をするものであると考えます。このため、経済的貢献が期待されるデザインは社会や文化と無縁ではないことから、対象とするデザインは、社会、文化等その他の面でも日常生活に影響を及ぼすものと考えます。

一方、「ブランド」とは、「製造業に属する企業が自社の製品等を他社の製品等と差別化又は識別化するために形成した有形無形の財産」と定義されます。デザインは、ブランドの重要な要素となっており、両者は密接な関係にあります。

戦略的デザイン活用における課題

我が国産業が置かれる現状を踏まえると、デザインを創造・活用するに当たって、以下の(1)〜(6)に掲げる課題が考えられます。これらの課題を踏まえ、本研究会を立ち上げ、政府としては10 年ぶりにデザイン全般について本格的な検討を行った。
なお、本報告ではもっぱらデザインについて検討をしているが、斬新なデザインを形成するためには、新しい素材、デザインを表現し得るような素材、それらの加工技術等に関する取組が並行して行われる必要があり、そうした技術の重要性を付言しておきたい。

(1) ブランド確立を念頭に置いた取組が不十分
デザインは、ブランドの重要な要素ではあるが、我が国ではマーケティングやブランド化を念頭に置いたデザインの創造・活用に向けた取組が不足している。これは経営層のデザインの有効性についての認識が薄いことに起因している。このため、「我が社の競争力の源泉はデザイン」と標榜する企業が欧州では数多いのに比べ、我が国では非常に少なく、経営層の意識改革が求められている。もっとも、ブランドが意識され始めたのは、米国、欧州とも決して遠い話ではない。それぞれ1980 年代後半以降、産業競争力の低下が特別に懸念された結果、国によって政府の関与の度合いが異なるが、ブランド化を念頭に置いたデザインの創造・活用は、自社製品の差別化を通じた競争力強化策の一つとして位置付けられている。その意味で、我が国が中国を中心とするアジアの国々に対する競争力の低下に真剣に悩み始めたのが1990 年代末とすれば、我が国において、ようやく最近ブランド確立の重要性の認識が強まってきたのも不思議ではない。デザイン政策についても、ブランドを確立する一つの手法として明確に位置付けられた検討は今日が初めてと言って良い。
ちなみに、国際社会の要請、我が国消費者の関心、技術対応力を考えれば、ユニバーサルデザイン(年齢や能力に関わりなくすべての生活者に対して適合する製品等のデザイン)やエコデザイン(環境に配慮したデザイン)は、我が国がリードし得る重要なコンセプトであると考えられる。

(2) 付加価値向上につながる人材、資金等の活用が不十分
欧米では、企業と、デザイナーを養成する教育機関(以下、「デザイン教育機関」と呼ぶ。)、デザイン事務所、他企業等との連携がグローバルなレベルで進展しているが、我が国ではこのような連携が不十分である。
特に、中小・中堅企業のうちデザインを活用して自社製品の付加価値向上を目指す企業は決して多くはない。中小・中堅企業においては、戦略的デザイン活用に対する意識の高い経営者であっても、多くが下請けを中心としてきた企業であり、新しく付加価値向上や差別化を図った商品を生み出す方向に経営の舵を切ることには大きな投資とリスクが伴うため、第一歩を踏み出すことに躊躇してしまうことが多い。政府としても、このような付加価値向上を図る取組を促進するための支援策が不足している。

(3) インフラが不十分
付加価値向上に資するデザインを創造・活用するためのインフラの整備が十分でない。例えば過去のデザイン、優れたデザイナー、意匠などに関連する情報を簡易に入手できる状況とは言い難い。特に、ユニバーサルデザインのような使いやすいデザインを創造しようとするときには、人間の寸法データ等の基盤データと人間の形状や動作のシミュレーションに有用なデザインツールが必要になるが、これらに関する情報提供、技術開発等が十分ではない。

(4) 権利保護が不十分
付加価値向上に資するデザインを創造しても、類似した製品が国内市場に出回ってしまうケースがある他、画像デザインについては権利が認められていないことが多く、デザインを創造・活用するメリットが大きくないという問題がある。また海外においては、中国、韓国等の企業による模倣が多発している。特に海外企業による模倣被害は広範囲に及ぶとともに極めて深刻であり、我が国製造業の収益を減退させている。

(5) 実践的なデザインを担う人材が不十分
デザイン活動においては、製品の「造形力」を発揮するのみで完結させるのではなく、製品コンセプトを決める「構想力」と製品を実際に企画・生産・流通・販売するための「調整力」とを密接に連携させながら高付加価値化、差別化を図っていくことが必要であるが、こうしたアプローチが不足している。
まず、デザイナー教育が芸術あるいは造形美に偏っており、商品開発、事業展開等の実務面から離れているため、マーケティングを重視し、製品の高付加価値化、差別化を図るという観点からデザインがなされていない。そのため、日本人デザイナーの「造形力」は先進国と比較して劣っているわけではないが、「構想力」・「調整力」が不十分なデザイナーが多く、デザイナー教育の見直しが必要である。
 また、我が国にはインハウスデザイナーを抱える大企業が多いものの、デザイナーの役割をモノを形作ることに特化させてきたため、商品全体のマネジメントの役割を担うような実践的な人材が育っていない。これは、インハウスデザイナーが比較的競争にさらされず、しかもマネジメントの教育をほとんど受けていないことに起因している。
 一方、デザイン事務所も、今まで企業の下請けを中心とした仕事をしてきたところが多いため、欧米に比べてデザインマネジメントやコンサルタントの機能が不十分となっている。

(6) 需要側の意識が不十分
デザインを戦略的に活用し、国内需要を増大するには、供給側の企業だけでなく、需要側の国民の意識の高揚が必要である。しかし、芸術の分野に比べてデザインに対する国民の意識や関心が高いとは言えない。また、欧州と比べて、デザインに対する国民の意識を広く涵養し、付加価値向上に資するデザインを重視する社会的土壌を築くための努力が、企業、行政の双方に不足している。

出典:経済産業省製造産業局デザイン政策チーム「戦略的デザイン活用研究会報告書」

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