杉浦コメント:いくつかの弱点もありますが,あえて生徒に説明させることによって,説明を印象に残そうという働きかけが面白い授業です。ただ,このような生徒の反応を中心として行う授業をシナリオ化するのはちょっとやりにくく,シナリオ型指導案の弱点です。生徒の反応は空白にしておいて,総括的な説明のシナリオだけを考えておくという方法もありますが・・・。
途中のマイナス点である発問のあいまいさは,大いに改善すべき点です。このように生徒に答えさせて授業を進めていく際には,発問の明確さは欠かしてはいけない点です。
この指導案では,プラス面とマイナス面を学んでほしいです。
シナリオ型指導案:ボルタ電池
授業の指導過程
「じゃあ授業初めていこうか。今日はみんなにとってけっこう身近にあるものを題材に化学を勉強していきたいと思います。」
(<電池>と黒板に書く)@
「たとえば、乾電池ってめっちゃ身近じゃない?どんな物に使われてる?はい、じゃあA君、答えてもらおうか?」
杉浦コメント:(シナリオ型指導案を作成する学生さんへ)以下のようなどんな答えが出てきても大丈夫な問いの答えはシナリオにしてもOKです。
A君「リモコン」
「そうだね。じゃあ、次はBさん」
Bさん「おもちゃ」
「オッケー、ありがとう。じゃあ、次に、乾電池に使われている物質は何だと思う?1分待つから考えてみようか。近くの人と相談してもいいよ。その後、何人か当てます。間違えても全然かまわないから、その代わり当たった人は必ず答えてね。(笑)分からないはダメ。よーい、スタート!!」
(1分経過)
「じゃあ、C君!!答えてみて。」
C君「木」
「木!?なんでやねん!!(笑)間違えてもいい。考えてみることが大事。では次、Dさんはどう思う?」
Dさん「電子が入ってると思います。」
(同様に3、4人当てる)
「なるほどねぇ、ありがとう。いろいろな考え方がありました。さっき電池は身近にあるって言ったよね。でもみんな、いや、みんなではないか(笑)多くの人が電池の仕組みを知らないんだ。でも、みんなはこれから電池の仕組みを説明出来るようになるからね。それも化学の楽しみの一つ。さらに化学を楽しむには『何で』、『どうして』っていうのを考えること。そして科学者のその疑問によって、今自分たちの周りにある電池は作られたんだね。それでは、現代の電池の出発点である、電池、ボルタ電池について詳しくやっていこうか。」
杉浦コメント:授業の目的とメッセージを同時に伝えられていてgoodです。
(<ボルタ電池とその説明>を黒板に書く)A
杉浦コメント:今回はスペースの関係で以下すべて図は無し。実際には手書きの図がしっかり書かれていました。
「まず初めに、ボルタ電池を作って見せようか。」
(希硫酸を持って見せながら)
「これは希硫酸」
(亜鉛板と銅板を持って見せながら)
「これは亜鉛の板、でこれは銅の板」
(ビーカーに希硫酸を入れ、亜鉛板と銅板を希硫酸につける。)
「これでボルタ電池完成!!おいおい、信じろよ!!じゃあ、実際に電子オルゴールにつないでみようか。」
(電子オルゴールと亜鉛板、銅板を導線でつなぐ)
(オルゴールが鳴り始める。)
(電子オルゴールの音が徐々に消える。)
「ここで電池切れかな。どう?ほんとに電池ができただろ!?さて、今からみんなに考えてほしいんだけれど、何でこれで電池になるの?どうして電気が流れるの?このことのついて1分後当てます。間違えてもいいから必ず答えてな。近くの人と相談してもいいよ。ヒントは前回の授業のイオン化傾向!!忘れたやつは前回のノート見直してみよう。では、スタート」
杉浦コメント:種明かしをすると,この間違えてもいいから生徒に当てて答えさせるというのは,このレポートを書いた彼の先生がやっていた授業だそうです。生徒が間違えながらも答えることで,先生が流暢に説明するよりもずっと覚えやすかったと彼は言っていました。
(黒板にボルタ電池の図、イオン化傾向の表とその説明を書く)B
(1分経過)
「誰にあてようかな・・・。じゃあE君!!どう?」
E君「イオン化傾向の違いで亜鉛が銅よりも先にイオンになって・・・」
「いきなりだから、まだちょっときついよな。オッケー。いい考え方。ありがとう。みんな、今E君が大事なこと言ったよ。『イオン化傾向の違いで銅よりも先に亜鉛がイオンになる』E君なんでそう考えたの?」
E君「亜鉛の方がイオン化傾向が大きいから。」
「いいねぇ!!正解!!じゃあFさん、亜鉛がイオンになるときのイオン反応式を黒板に書いてくれる?」
(Fさんが黒板に亜鉛のイオン反応式をかく)C
「オッケー。みんなもう書けるようになってるかな。亜鉛は二価のイオンになるから、電子を2個出して、この反応式になるんだね。」
「じゃあ、この亜鉛から出てきた電子はどうなったと思う?G君!!」
G君「電子オルゴールに流れたと思います。」
「そうなんだよ。正解。」
(亜鉛板からオルゴールへ矢印を書く)
「じゃあそのあと電子は銅板にたどり着くよね。」
(オルゴールから亜鉛板へ矢印を書く)
「そのあとは?Hさん!!」
Hさん「銅がイオンになると思います。」
「正解!!・・・・・っぽいけど違うんだなぁ。残念。このビーカーの中に入っている液体はなんだったっけ?I君」
I君「硫酸」
「硫酸じゃなくて希硫酸だよ。『希』の漢字はきわめて少ないという意味。つまり、非常に薄い硫酸の水溶液ってことだ。じゃあ、希硫酸中に含まれているものは?Jさん」
Jさん「えっ!?硫酸??」
「もう一つ何か入ってるやろ?希硫酸は何で硫酸をうすめてるか考えてみて?」
Jさん「水?」
「そう。水!!実はね、水はこの時若干だけれども電離してる、つまりイオンにわかれているんだ。そのイオン反応式を黒板にかくよ。」
(黒板に硫酸のイオン反応式、水のイオン反応式を書き、図の中にイオンを書き込む)D
「この2つの反応式は水と混合した時に自然に起こる反応だから、ボルタ電池によってこの反応が起きたんじゃないから注意してね。で、この2つの反応式を書く時に大切なのは硫酸イオンが二価の陰イオンであることと水の反応式の矢印が左右に向いていること。これは電離がごくわずかだけ起こっていることを意味するからね。」
「ここまでやってきたことわかってるかな。亜鉛がイオンになって電子を出す。その電子が電子オルゴールに流れて、銅板に到着する。その後、その電子はどうなるか?っていう問題やな?銅がイオンになると、さっきのイオンが使われるどころか、むしろイオンが増えてしまうやろ!!電子を使わなあかんのやで。今、黒板に書いた水のイオン反応式をヒントにもう一度考えて!!ここが間違えやすいポイントだから、しっかり考えて確実なものにしよう!!今度は特別に2分待ちます。相談オッケー。スタート!!」
杉浦コメント:ここは大きなマイナス点。何を答えればいいのかが明確に問うことができていません。これでは生徒は考えられません。考えさせるときには問いをできるだけ明確に。前に問いかけているときでも考えさせるときにはもう一度問いかけなおすこと。
(1分経過)
「もう一つのヒント!!イオン化傾向が大きいとイオンになりやすい。逆にイオン化傾向が小さいとイオンになりにくい。ということは、この電池の中でイオンになっていて一番イオン化傾向の小さいイオンがどうなるか?って考えてみて!!ちなみに電子を受け取ることができるのは陽イオンか陰イオンかってことも大事です。」
(さらに1分経過)
「じゃあ、K君、理由も含めて答えてください、どうぞ!!(笑)」
K君「水素イオンは陽イオンになっているものの中で、一番イオン化傾向が小さくて一番イオンになりにくいので、水素原子が電子を受け取るとおもいます。」
「正解。イオン化傾向が小さい=イオンになりにくいということが最大のポイント!!K君と同じ考え方した人、どれぐらいおるかな?手あげてくれる?」
(15、6人ほど手があがる)
「オッケー。結構できたみたいやね。水素イオンが銅板の横に寄ってきて、電子を受け取ると水素になる。ただし、ちょっと注意!!何か忘れてない?水素イオン2つに電子が2個入って水素分子だからね。水素は分子で存在するからね。そこを間違えないように。そのイオン反応式も黒板に書いておくね。」
(水素分子生成の反応式を書き、図にも水素を書き込む)E
「黒板みて、亜鉛、硫酸、水のイオン反応式をそれぞれ書いてるんだけれども、よく見て!!亜鉛イオンだけじゃなくて、硫酸イオンも負のイオンだよね?でも、実は硫酸イオンは反応しないんだ。イオンの状態が安定な物質だからね。」
「じゃあ、もう一度今までの流れを復習してみようか!どのような仕組みでボルタ電池に電子が流れるのか?また、1分待ちます。3、4人に当てて全員が正解したらオッケー!!1人でも間違えたらクラス全体責任やからな(笑)分かってないやつがおったら教えてやれよ!!スタート!!」
(1分経過)
「じゃあ、当てていこうか!!Lさん」
(Lさんたち3、4人が説明する。不十分であれば付け加える。)
「じゃあ、もうボルタ電池の仕組みについては完璧だね?ただ、電流は電子が流れる向きと逆向きに流れることには注意ね!!あと電池には電流が出てくるプラスと電流が入ってくるマイナス、化学では正極、負極って言い方するんだけどどっちが正極かわかるかなぁ?」
「亜鉛板が正極だと思う人―?手あげて!!」
(半分以上が手をあげる)
「じゃあ、他の人は銅板が正極だと思うんだね?正解は小数派の銅板が正極なんだ。黒板見て!!亜鉛板から電子が出て行ってるよね?じゃあ、電流は電子と逆の向きに流れるから、電流は亜鉛板に入って行ってるんだよ!!と言うことは亜鉛板が負極だよね。いい?次、逆に銅板について考えると電子が入ってきてる。ということは電流が銅板から出て行ってるってことなんだね。ということで銅板が正極!!わかったー??」
(正極、負極、電流の矢印を図に書き込む)
「さぁ、こうやってボルタ電池についてやってきたわけやけども、やっぱり自分たちの身近くにある乾電池と比べたら、だいぶショボイよね。電気を発生させる力、起電力がよわすぎる!!だって、リモコン5回操作したら電池が切れるみたいなことになったら、電池交換ばっかりせないかんからメチャ大変やん!!ってことは、電池が実用化出来るようにするためには電池がすぐに切れないことが大事になってくるんだよね。じゃあ、ボルタ電池はどうしてすぐに起電力がなくなるのか?この原因を発見できたら、解決策を考えて電池を発達させることができるから、科学者たちにとって非常に大きな課題となったわけだ。で、いろいろ調べていくと銅の近くで発生している水素が原因であることがわかったんだ。水素が気体となって銅板の周りに多量に付着して、水素イオンが銅板に電子を受け取りに行くのを邪魔してしまうんだよね。そうなると電子はどうなる?流れる?流れない?M君」
M君「流れない」
「そういうことなんだよね。そうなるとボルタ電池は終了ってことになるんだ。ここまでちょっと黒板にまとめておこうか。」
(黒板にまとめを書く)F
「じゃあ電池の起電力をより長く維持するためにはどうしたらいい?水素をどうすればいい?Nさん。」
Nさん「発生した水素を取り出せばいいと思います。」
「そう!!あともう一つ方法があるよ。水素を最初から発生させなければいいと思わない?そんなことできないと思う?確かにこのボルタ電池のように亜鉛板、銅板、希硫酸の組み合わせでは無理だよね。じゃあ、組み合わせを変えればいい。そうやって次に考えられたのがダニエル電池っていう電池。」
(黒板にまとめの続きを書く)
「あっ!!さっき言い忘れたけど、ボルタ電池はボルタさんが作った電池だから、ボルタ電池。ダニエル電池はダニエルさんが作ったってことね。みんなも新しい電池開発したら名前つけれるかもよ(笑)ダニエル電池については次回の授業からやっていきたいと思います。ダニエルさんがどのように工夫したのか楽しみにしておいてください。」
「はい、じゃあ今日の授業で分からないことがあったら手あげてください。」
(数人が手をあげる)
(質問について説明する)
「みんな、どんな小さなことでも分からないことは分からないってちゃんと言いいなよ。分からないって言うってことは、分かろうと努力してくれているわけだから、先生は喜んで協力するからね。っか逆に分かってるって思ってる人!!ほんとに分かってる??テストするぞ!!」
(周りを見渡す)
「よし!!もういい完璧かな?じゃあ、シャーペンと消しゴムだけ机の上において、教科書、ノートは机の中に入れて!!もう質問する人はいなかったわけだから授業内容のテストは当然、みんな50点満点だよね?(笑)40点以上はとってくれよ〜!!」
(テスト配る)
「全員ありますか?じゃあ、10分間テスト開始」
(生徒がテストをしている間、周りを見てまわる。)
(10分経過)
「じゃあ、テスト終了!!解答を配ります。自分で確認して!!今回のはフェイント(笑)別に回収はしません。」
(チャイムが鳴る)
「じゃあ、授業はここまで!!おつかれ〜!!テストの問題で分からないところがあった人はそのままにせずに必ず質問にきてよ〜!!」
化学 ボルタ電池 確認テスト
年 組 氏名
1 ボルタ電池について、次の問に答えよ。
(1)ボルタ電池を作成する際に必要な化学物質を3つすべて答えよ。
( )( )( )
(2)ボルタ電池に電流が流れる仕組を、図と「イオン化傾向」という言葉を用いて説明せよ。ただし図には授業と同様にオルゴールを用いてよい。
(3)ボルタ電池によって起こる化学反応式をかけ。
(4)ボルタ電池の正極、負極は何か、それぞれ答えよ。
正極( )、負極( )
(5)ボルタ電池の問題点は何か。「起電力」という言葉を用いて説明せよ。また、その問題点を改良して開発されたボルタ電池の後に作られた電池の名前をかっこの中に記せ。
電池の名前( )
化学 ボルタ電池 確認テスト
年 組 氏名
1 ボルタ電池について、次の問に答えよ。
(1)ボルタ電池を作成する際に必要な化学物質を3つすべて答えよ。
( 希硫酸 )( 銅板 )( 亜鉛板 )
(2)ボルタ電池に電流が流れる仕組を、図と「イオン化傾向」という言葉を用いて説明せよ。ただし図には授業と同様にオルゴールを用いてよい。
ボルタ電池の電極である、亜鉛板と銅板のうち、
イオン化傾向の大きい亜鉛がイオンとなり電子を
放出する。そしてその電子はオルゴールを通り銅
板へとたどり着く。このような経緯で電子が流れ、
電流がその電子の向きと逆むきに流れる。
※水素の発生も図で示すこと。電流が流れるには水素イオンが電子を受け取るという過程が必要不可欠であるため。
(3)ボルタ電池によって起こる化学反応式をかけ。
(4)ボルタ電池の正極、負極は何か、それぞれ答えよ。
正極( 銅板 )、負極( 亜鉛板 )
(5)ボルタ電池の問題点は何か。「起電力」という言葉を用いて説明せよ。また、その問題点を改良して開発されたボルタ電池の後に作られた電池の名前をかっこの中に記せ。
ボルタ電池の問題点は、銅板付近で発生する水素が電子の流れを遮る事によって起こる起電力の低下である。
電池の名前( ダニエル電池 )