マダガスカルにおけるエビ養殖プロジェクト
マダガスカルに駐在のS氏より投稿
1.はじめに
マダガスカルは赤い国。国土を覆う赤色ラテライトが、森林破壊により露呈し、赤い国といわしめている。その赤色ラテライトは河川の浸食をうけ海に流れ込む。マダガスカル最大の河川ヘベチボカ川の真っ赤な河川水は、河口に位置するマジュンガの海を赤く染めている。この赤く染められた海はエビの宝庫でもある。河川からの栄養分が海に流れ込みプランクトンを湧かせエビを養育、好漁場を形成する。
2.プロジェクトの背景
マダガスカルは海洋エビの年間漁獲が約1万トンある。とくにマジュンガ沖はマダガスカルの好漁場のひとつである。近年その資源は停滞,減少の傾向にある。その対策
として,マダガスカル政府は漁獲の制限を実施するとともにエビ養殖の振興に取り組む構想を策定した。東南アジア諸国でもエビ養殖が一大産業として外貨獲得に寄与していた1980年代の後半の事である。
エビ養殖の振興策として、1988年マダガスカル国北西部のノシベにFAO/UNDPの協力を得てエビ養殖の実験を行った。この実験ファームでの結果は、マダガスカルにおけるエビ養殖の可能性としてはウシエビ(P.monodon)の半集約養殖が商業的な採算にもっとも近いことが示唆された。その後、本ノシベのプロジェクトは一民間企業に引き継がれ大規模養殖へと発展した。しかしながら、そこでの技術は一民間企業内で留まり、広くマ国内への技術移転はおこなわれなかった。
そこで、マダガスカル政府は1989年に広くマダガスカル国内の特に、中小零細漁民へのエビ養殖技術振興の拠点として、国を代表する日系のエビトロール漁業企業のあるマジュンガに、エビ養殖センターの設立を日本国政府に依頼した。これをうけて、日本国政府は国際協力事業団(JICA)を通じて水産無償資金協力プログラムにより、エビ養殖のハードウエアとしてのエビ養殖訓練センターを1996年7月に設立、あわせて、ソフトウエアとしての技術移転をJICAのプロジェクト技術協力方式により1998年4月より開始した。
3.マダガスカル北西部養殖振興計画プロジェクト
JICAのプロジェクト方式技術協力は日本の有する技術・経験・知識・ノウハウを相手国の実情を踏まえ、通常3−5年間に集中的に相手国の人材に移転する。
プロジェクトは相手国との討議議事録(Record of Discussion以下R/D)に基づき
@日本からの長期、短期専門家の派遣
Aカウンターパートの日本での研修受け入れ
B技術移転に必要な機材の供与
を協力の大きな三本柱とし、さらに現地事業の支援経費の負担などもおこない、該当分野での相手国の自立発展を促進するための協力を行う。
マダガスカル北西部養殖振興計画プロジェクトはマダガスカル国と日本国とで1997年12月に締結されたR/Dに基づき、最終目的をマダガスカル北西部沿岸の零細漁民の参加による、小規模エビ養殖開発を行う事と定め、日本国からの水産無償援助資金協力により設立されたエビ養殖訓練センターの養殖開発活動強化をプロジェクトの目的として実行されている。
エビ養殖は一般的に種苗を生産する水槽とその種苗を育てる養殖池に分かれて行われる。プロジェクトも種苗を生産するアンボロビ種苗生産部門と、これらの種苗を商品サイズまで育て、また零細漁民の訓練を実施するアンツアンビンゴ゙養殖訓練部門との2ヶ所所に分かれて実施している。
センターでの活動を次のようにR/D上取り決めている。
@エビ種苗生産に関連した以下の問題についての研究
a.親エビの飼育
b.成熟と産卵
c.幼生飼育
d.生物餌料の培養。
Aエビ養殖に関連した以下の問題についての研究
a.中間育成
b.現地に適応する池中養殖技術
c.養殖池の管理
d.エビ養殖の環境条件調査
これらの活動を実行するために、JICAはプロジェクトリーダー、調整員、エビ種苗専門家、エビ養殖専門家と各分野の専門家を1名づつ派遣し、1998年4月より技術移転を開始した。
4.マダガスカルのエビ養殖事情
エビは外貨が獲得できる国際商材である事。エビの飼育サイクルは短く、年に2−3回収穫できる事。1980年代に種苗生産技術が確立したこと。これらのエビ養殖の優位性に加え、東南アジア等では、従来から行われていたマングローブ帯での伝統的養魚などから副産物的にP..monodonが収穫されていた背景もあり、エビ養殖ははあっと言う間にマングローブ帯に広がっていた。その結果、数百年前から綿々と行われていたマングローブ帯での持続的伝統養魚池がエビ池に変わったり、あるいは、エビ養殖の収益性の高さから、新規にマングローブ帯等も切り開かれ、稚魚の育成場たるマングローブ帯の荒廃となってしまったといわれている。
一方、マダガスカルではエビ養殖によるマングローブ帯の破壊はありえない。なぜなら、東南アジアで行われているマングローブ帯での伝統的養殖がほとんど存在しない。したがって、伝統的養魚からのエビ養殖への転換もない。1990年の前半から大企業のエビ養殖が開始されたが、養殖地はエビ養殖には不適なマングローブ帯の酸性土壌地帯をさけ、酸性土壌を形成しないマングローブ帯の背馳のハイランド゙において、ポンプアップによる養殖が始まったばかりである。養殖池面積も全土で1000haもない状況である。マダガスカルにおけるマングローブ林や森林の破壊は、焼き畑をはじめ住民の生活のため薪としての利用や、住居の建設材のために、古くからおこなわれている。単純に火を放ち燃える様を見て楽しむ傾向もあるという。マングローブ林も、エビ養殖による森林破壊が行われる以前に、零細漁民により、生活のための薪、垣根などの資材、炭などの原料として現金収入の糧のためすでに破壊がすすんでいる。これらの零細漁民にエビ養殖による現金収入の途を提示すれば、マングローブ林の破壊はくい止められる事となる。
5.プロジェクトの進行状況
プロジェクトはまだ始まったばかりで初年度はカウンターパートへの技術移転を中心に行いながらも、種苗生産部門においては当初目標の3倍の300万尾の種苗が生産され、配布された。また、種苗部門技術者も民間種苗場へ7名すでに引き抜かれ、それぞれ活躍しており、明らかな技術移転の証左となっている。一方、養殖部門はこれまで半集約、粗放養殖の試験生産が実施され、潮汐による換水システムでの半集約養殖の平均的な生産量500kg−900kg/ha/cropがすでに得られた。粗放養殖では35kg/ha/cropとこちらも東南アジアの平均的な収穫量を得た。また、養殖訓練部門からも2名、民間養殖プロジェクトへ転出しそれぞれ活躍している。さらに、池中での親エビ養殖もプロジェクトの開始から手がけられ、今年中にはプロジェクト産の親エビからの採卵が得られば、プロジェクト開始2年で完全養殖の達成となり、順調な進行状況を誇示出来る。
エビ養殖後発国であるマダガスカル政府及びプロジェクトは、前述の如く、“東南アジアのエビ養殖の蹉跌”を繰り返さないように、マングローブ林の役割、住民の生活などを考慮しつつ、マングローブ帯での調和あるエビ養殖の開発を標榜しプロジェクトを進行させ、JICA専門家およびそのカウンターパートとともにマダガスカル北西部の養殖振興に寄与して行きたい思いである。